世界一大きい犬は誰だ?歴代の優しき巨人たちとその悲しい宿命を徹底解説
世界で最も大きい犬はどの犬種か、気になった経験はありませんか。その圧倒的な存在感と優しさを兼ね備えた「優しき巨人」たちに、多くの人が魅了されます。しかし、その称号の裏には、大きさの定義を巡る議論、そして何よりも彼らが背負う過酷な運命が存在します。
この記事では、歴代の世界一大きい犬たちの物語から、それぞれの犬種の魅力、そして彼らと暮らすための現実までを徹底的に解説します。私がこの記事を通じて伝えたいのは、単なる大きさの記録だけでなく、その壮大な体格と引き換えに短い生涯を送る巨人たちの真実です。
歴代の世界一大きい犬|高さの王者たち
「世界一背が高い犬」という栄光の称号は、そのほとんどを特定の犬種が独占してきました。その犬種こそ、威厳と優雅さを兼ね備えたグレート・デーンです。彼らはまさに「犬の中のアポロン」と呼ぶにふさわしい存在といえます。
ギネス記録を独占するグレート・デーン
ギネス世界記録が認定する「史上最も背の高い犬」は、アメリカ・ミシガン州に住んでいたグレート・デーンの「ゼウス」です。彼の体高は驚異の111.8cmに達し、後ろ足で立つと人間をはるかに超える223cmにもなりました。その姿はまさに圧巻の一言です。
近年でも、この記録はグレート・デーンによって更新され続けています。2022年に認定されたテキサス州の「ゼウス」(奇しくも同じ名前です)、そして2024年に認定されたアイオワ州の「ケビン」も、体高100cmを超える立派なグレート・デーンでした。
記録の裏にある悲しい宿命
しかし、この輝かしい記録の裏には、非常に悲しい現実が隠されています。史上最も背が高かったゼウスは、わずか5歳で虹の橋を渡りました。近年の記録保持犬であるゼウスとケビンに至っては、ギネス認定からわずか1年、あるいは数日という短い期間で、3歳という若さでこの世を去っています。
彼らの早すぎる死は、決して偶然ではありません。極端な大きさを追求する繁殖が、心臓病や骨のがん、そして後述する胃捻転といった深刻な健康問題のリスクを高めているからです。世界一という称号は、彼らにとって早すぎる死を悼む「悲劇的な栄誉」となってしまっているのが現状です。
「大きさ」は高さだけじゃない|王座を狙う巨犬たち
「世界一大きい」という言葉の定義は、実は一つではありません。個体の「体高」で見るか、犬種全体の「平均体高」で見るか、あるいは「体重」で見るかによって、王者の座は入れ替わります。グレート・デーン以外にも、王座を狙うにふさわしい巨人たちがいます。
平均身長No.1|アイリッシュ・ウルフハウンド
犬種全体の平均的な背の高さで見た場合、世界一の称号はアイリッシュ・ウルフハウンドに与えられます。彼らは、一部の個体が突出しているグレート・デーンとは異なり、犬種全体として非常に背が高いという特徴を持っています。その最低体高はオスで81cm以上と定められており、安定して大きな体格を誇ります。
その歴史は古く、かつてはオオカミや巨大なエルクを狩る猟犬として活躍していました。その獰猛なイメージとは裏腹に、現代の彼らは「家庭では子羊のごとく」と称されるほど穏やかで優しい性格の持ち主です。
体重No.1|イングリッシュ・マスティフ
議論の尺度が「重さ」に変わると、イングリッシュ・マスティフが議論の余地なく王座に君臨します。彼らは骨太で筋肉質な体を持ち、その圧倒的な質量で他を寄せ付けません。
歴史上、最も重い犬として記録されているのは、イングリッシュ・マスティフの「ゾルバ」で、その体重はなんと155.6kgにも達しました。これは成人男性2人分以上の重さです。もともと軍用犬や番犬として活躍してきた歴史が、この屈強な体格を作り上げました。
どの犬種を選ぶ?3大巨犬を徹底比較
ここまで紹介してきた3犬種は、いずれも「巨人」ですが、その特性は大きく異なります。私がそれぞれの犬種を比較し、その違いを分かりやすく解説します。巨犬との暮らしに憧れるなら、この違いを理解することが最初のステップです。
見た目と性格の違い
3犬種の特徴を以下の表にまとめました。彼らのルーツが、その姿や性格にどう影響しているかがよく分かります。
特徴 | グレート・デーン | アイリッシュ・ウルフハウンド | イングリッシュ・マスティフ |
「最大」とされる特性 | 個体の体高 | 犬種の平均体高 | 質量・体重 |
平均体高(オス) | 81cm以上 | 81–86cm | 76cm以上 |
平均体重(オス) | 54–90kg | 54.5kg以上 | 72–104kg |
気質のキーワード | 温和、友好的、忍耐強い | 穏やか、威厳がある、親切 | 従順、勇敢、保護的 |
番犬としての適性 | 低~中程度 | 非常に低い | 高い |
平均寿命 | 7–10年 | 6–8年 | 6–10年 |
グレート・デーンは誰にでもフレンドリーで社交的です。アイリッシュ・ウルフハウンドは穏やかで優しく、番犬には向かないと言われるほどです。一方でイングリッシュ・マスティフは、家族への愛情が深い反面、強い保護本能を持つため、番犬として非常に優れた能力を発揮します。
飼育環境と運動量の違い
巨犬との生活では、彼らの身体的ニーズを満たす環境が不可欠です。グレート・デーンとアイリッシュ・ウルフハウンドは、その大きな体を維持するために、毎日1時間以上の散歩を2回行うなど、多くの運動量を必要とします。自由に走り回れる安全なスペースの確保も重要です。
対照的に、イングリッシュ・マスティフの運動要求はもう少し穏やかです。激しい運動よりも、ゆっくりとした長めの散歩を好みます。自分のライフスタイルにどの犬種が合うかを考える上で、これは非常に重要なポイントになります。
巨犬と暮らすための覚悟|知っておくべき現実
巨犬を家族に迎えることは、単に犬を飼うこと以上の、人生を懸けたコミットメントです。私が特に強調したいのは、その大きさがもたらす具体的な課題と、飼い主が背負うべき責任です。
想像を絶する経済的負担
巨犬の飼育費用は、小型犬や中型犬とは比較になりません。食事、医療、日用品のすべてが特大サイズであり、そのコストも比例して大きくなります。
費用項目 | 年間推定費用(日本円) |
食費・おやつ代 | 130,000円~150,000円 |
日常的な獣医療費 | 69,000円~90,000円 |
ペット保険料 | 30,000円~70,000円 |
用品費・その他 | 70,000円~ |
年間推定費用合計 | 約300,000円~500,000円以上 |
この表はあくまで基本的な費用です。胃捻転などの緊急手術が必要になった場合、一度に数十万円単位の出費が発生することも覚悟しなければなりません。
命に関わる最重要課題|胃捻転の恐怖
胃拡張・胃捻転症候群(GDV)、通称「胃捻転」は、胸の深い大型犬種にとって最も恐ろしい病気です。発症から数時間で命を落とすこともある、非常に緊急性の高い疾患です。吐こうとしても何も出ない、お腹が膨らむ、苦しそうにするといった兆候が見られたら、一刻も早く動物病院へ向かう必要があります。
予防策としては、食事を1日2~3回に分ける、食後の激しい運動を避ける、早食い防止食器を使うといった日々のケアが重要です。避妊・去勢手術の際に、胃を固定する予防手術を受けることも有効な選択肢となります。
安全を守るための絶対的なしつけ
体重が80kgを超える犬が本気でリードを引いたり、人に飛びついたりすれば、それは単なる迷惑行為ではなく、重大な事故につながります。巨犬のしつけは、選択肢ではなく絶対的な義務です。
子犬の頃からの社会化トレーニングはもちろん、「マテ」や「オイデ」、そして人に飛びつかないように教える「オフ」といった基本的なコマンドを完璧に習得させることが、犬自身と周囲の安全を守るために不可欠です。その力と大きさをコントロールできるのは、飼い主だけなのです。
まとめ
「世界一大きい犬」という問いの答えは、見る角度によって変わります。個体の体高記録ではグレート・デーンが、平均身長ではアイリッシュ・ウルフハウンドが、そして体重ではイングリッシュ・マスティフが、それぞれの分野で王者に君臨します。
彼らと暮らすことは、計り知れない経済的、物理的な負担と、短い寿命という避けられない宿命と向き合う覚悟を要求します。しかし、そのすべての挑戦を受け入れた飼い主だけが、伝説から抜け出してきたような威厳と、海のように深い愛情を併せ持つ彼らとの、唯一無二の絆を経験できます。巨犬との生活は短い旅路かもしれませんが、その日々は、彼らの体の大きさに比例した、計り知れないほどの愛で満たされることでしょう。